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2019.10.15
最近、アメリカ食品市場の一つの傾向に、クリーンラベルという動きが強くなってきている。これは一定の科学的あるいは業界的な定義があるわけではないが、食品の成分表をできるだけ簡素にし、合成色素や合成フレーバー、人工甘味料などの添加物を使わないといった動きである。また、消費者が成分表を見て、自分が理解できないような成分が入っているだけでなく、あまりに多種類の成分が細かい字で書かれていると、その製品を買わないという傾向が出てきているのである。こうした消費者の有機、自然食品、合成添加物不使用食品への希求にこたえるために、消費者に分かりやすく、安心できる食品を提供しようとする業界主導の動きである。つまり消費者が製造会社の製品を信用、信頼できるものであると判断する基準のようなものである。このクリーンラベル製品の動きはアメリカの食品業界だけでなく、世界の食品業界に広がってきている。New Hope社の調査によると、『クリーンラベル製品』という言葉を、消費者の47% が聞いたことがない、32% は聞いたことがあるが意味は知らない、4% の人は知っているがあまり関係ない、17% が知っており購買を左右すると回答している。つまり、クリーンラベルという言葉自体はまだ業界用語であるが、しだいに消費者もその言葉を理解しつつあり、業界としては、消費者にわかりやすい、消費者の求めているようなより健康な商品を提供しようとする傾向が強まっている。

筆者は一度ある主婦の方に聞かれたことがある。「この製品の成分表にあるアミノ酸とは何でしょうか。危険な添加物でしょうか?」という質問であった。勿論、筆者は、「これは安全なもので、我々の身体を作っているタンパク質に含まれているものですよ。」と説明して理解してもらったと思っているが、その人にとっては理解できないので不安になったのであろう。例えば、L-アスコルビン酸ナトリウムと書くと知らない人がいるが、ビタミンCと書くと知っている人がほとんどであるので、不安は取り除かれる。食品表示にはそうした複雑な問題がある。Gocleanlabel.comには、「クリーンラベルとは、本物の食品への回帰と透明性を志向する消費者主導のムーブメントである。そこでは自然で馴染みのあるシンプルな素材(容易に認識し名前を口に出すことが出来るもの)から作られる食品が求められるのであり、人工的な素材や合成化学物質が使用されていてはならない。」としている。このサイトではクリーンラベル成分かどうかのリストを作っているが、Whole Foods MarketやPanera Breadが独自で作ったもので、必ずしも業界で確立されたものではない。
それではどのような製品がクリーンラベルの製品として市場で販売されているのであろうか。ほとんどの商品にはクリーンラベルという表示はしていない。しかしそれをあからさまにラベルの包装で示している商品がある。例えば、RX Bar社が出しているプロテイン・バー製品(写真1)には包装の一面にその成分を表示して、それ以外は何も入っていないことを示している。成分の一番下には、“No B.S.” と書いているが、これは “No Bull Shit” の略で、それ以上のばかげたものは入っていないという意味である。“Bull Shit” はそのまま訳せばわかるように余りいい言葉ではなく、その代わりに “B.S.” とよく言われ、『馬鹿げたこと』や『馬鹿な言葉』を意味する俗語である。裏には、“No Soy”, “No Dairy”, “No Gluten”, “No Sugar” と表示し、クリーンラベル製品であることを前面に出して販売している。
Kizeconcepts社は非常に社会意識の強い会社で、その利益を社会に慈善事業で還元している。会社の名前は日本語の『改善』から来ているそうで、社会の改善を事業目的としている。この会社のナッツ、ピーナッツなどを中心にしたエネルギー・バー製品(写真2)は添加物を一切使用していないクリーンラベル製品で、包装には成分の数を書いてそれを示している。 “Peanut Butter”, “Almond Butter”, “Cookie Dough”, “Peanut Butter Chocolate Chip”, “Cocoa”, “Vanilla Almond”, “Almond Butter Chocolate Sea Salt”, “Cinnamon Roll”, “Peanut Butter Crunch” の9種類を出している。


最近はCampbell Soup, Hormel FoodsやGeneral Millsなど大手の食品会社もクリーンラベル製品を出す傾向が出ている。例えば、Mondelez社(以前はKraft Foods) の定番製品の “Nabisco” ブランドのクラッカー製品 “Triscuit” の “Original” (写真3)には “Start with Three Ingredients” と表示し、主成分に全粒小麦粉、カノーラ油、海塩だけを使っている。フレーバーをつけた製品には天然フレーバーやスパイスなどを使っている。
Campbell Soupは合成の色素、合成フレーバー、合成添加物、加工でん粉などを一切使用せず、消費者が知っており、信頼できる材料だけで作ったスープ製品 “Well Yes”(写真4)を出している。Kraft Heinz社は100年以上も販売されている “Jell-O” ブランドのプディング・ミックス製品にクリーンラベル製品とされる新しい製品 “Jell-O Simply Good”(写真5) を追加した。
これらのプディング・ミックス製品は、合成着色料、合成フレーバー、保存料を使っておらず、成分として本物のバナナ、ココア、バニラビーンズなどを使っている。これまで売られていた “Jell-O” には合成添加物、合成フレーバーが使われていたが、最近の消費者の動きに合わせてKraft Feinz社もナチュラル志向になってきており、最近の消費者が求めるクリーンラベル製品にしている。 “Strawberry”, “Orange Tangerine”, “Pineapple Orange”, “Mixed Berry”, “Vanilla Beans”, “Banana”, “Choco Late”, “Chocolate Caramel” の8種類を出している。
Applegate Farms社は自然派、またはオーガニックの肉製品、チーズ製品を出す会社であるが、この会社のクリーンラベル製品としてベーコン(写真6)がある。普通ベーコンやその他の肉製品には赤い色を保つために亜硝酸塩が添加物として使われる。しかし、これを使うと自然派製品でも、クリーンラベル製品でもなくなる。そこで、この会社ではその代りにセロリ粉末を使っている。セロリには自然の亜硝酸が多く含まれており、フロリダ州にあるFlorida Food Products社がセロリを乾燥し粉末にして亜硝酸塩の代替え品として使用できることを示して販売している。これを使ってラベル表示にはセロリ粉末と表示している。セロリ粉末は自然のものであるので、自然派食品の表示ができる。こうした自然の添加物を使う傾向は今後も伸びていくであろう。

市場に販売されている製品でクリーンラベル製品は多くあるが、特にクリーンラベル製品であると消費者にアピールしているものは少ない。むしろ、食品会社が自発的に、その成分を吟味し、クリーンラベルである自然あるいは有機食品、合成添加物フリー、アレルゲンフリー、グルテンフリー、抗生物質非使用、砂糖フリーなどの、より健康的な製品を消費者に提供しているのである。アメリカの食品市場では、今後もこうした商品のクリーンラベル化の傾向はますます強くなると思われる。
©アメリカ食品産業研究会
著者:吉田隆夫プロフィールを見る
吉田 隆夫 (よしだ たかお)
Takao Yoshida
1968
1968 - 1970
1972
1972 - 1974

1974 - 1985
1985 - 1990
1990
1999
2002
2016
大阪大学理学部化学科修士課程卒
マイアミ大学学術研究助手
大阪大学理学部化学科理学博士取得
シラキュース大学化学科学術研究員
*2010年ノーベル化学賞受賞 根岸英一氏「シラキュース大・根岸研究室」で協働
International Flavors & Fragrances 社 主任研究員
Carlin Foods/Bunge Foods 社国際事業部長
JTC インターナショナル創立
アメリカ食品産業研究会設立
e-食安全研究会設立
クリエイティブ食品開発技術者協会設立


インターナショナル食品安全協会会員、アメリカ化学会員、アメリカ食品科学技術者協会会員-プロフェッ
ショナル・フェロー、アメリカ食品産業研究会会長、e-食安全研究会理事長

学術論文:21(化学学術論文)、技術特許:40以上



e食安全研究会 理事長
アメリカ食品研究会 会長
クリエイティブ食品開発技術者協会 専務理事
理学博士
IFT 認証食品科学士

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