まめ知識/まめ知識トップ/自然志向の強まるアメリカ食品市場
2020.03.16
アメリカのスーパーマーケットに行くとオーガニックやナチュラルと表示した製品が非常に多く並んでいる。オーガニック食品の食品市場に占める割合は6% 近くまでになって来ている。“Natural” あるいは “All Natural” などと表示した商品は数えきれないくらい店頭に並んでいる。この動きは世界の歴史を考えてみることで理解できる。1800年代後半から1900年代に入って先進国は急激に工業化が進み、食品産業も同時に工業化が進んだ。食品加工産業がどんどん伸び、冷蔵技術、保存技術、加工技術などが進化し、食品産業は地域産業から広域産業に拡大していった。第2次大戦後はファストフードが出てくるようになる。こうした工業の発達は経済を豊かにし社会を近代化したが、同時に自然環境にも影響を与えるようになった。1960年代のヒッピーの時代から静かに流れ始めた人間活動の自然環境へ与える影響を考える動きは、1900年代後半から2000年台に入ってヒッピー世代が経済的に主導権を握ると次第に強くなり、環境問題への関心が強くなった。食品産業にもその流れとして、自然、オーガニック食品市場が1990年代の後半から次第に広がり、現在では非常に強い流れになった。さらに自然志向は、非遺伝子組み換え食品(Non-GMO)、ローカル食品、持続可能食品(Sustainable)、人道的に飼育した家畜からの肉製品 (Humane)、グラスフェッド (Grass-Fed)、フェアトレードの製品(Fairtrade)、雨林保護を考えた製品(Rain Forest Protected)、クリーンラベル製品 (Clean Label) など様々な社会意識製品が世に生み出されるプラットフォームとなった。これらの製品の多くは自己認証的に製品に表示されているものが多いが、認定団体が認定をし、認証ロゴをつけた製品も多くある。今回はこうした種々の自然志向製品を紹介してみる。
オーガニック食品:
これはアメリカ政府がオーガニック食品の規則を制定しており、それに従っている製品しか「オーガニック」を謳うことができない。そのためオーガニックの認証ロゴは政府から承認された認定団体から認定を受けないと表示できない。USDA(アメリカ農務省)の認証ロゴはWella Organics社のバー製品 “Almond Sour Cherry”(写真1)のように、左下に表示されている。表示するには少なくとも水と塩を除いた成分の95% 以上がオーガニックでなければならない。オーガニック食品の規則は最近では各国で整合性が認められるようになったので、海外製の商品でもこのロゴがついたものが最近では店頭に多く並んでいる。
非遺伝子組み換え食品:
このカテゴリーは遺伝子組換えをしていない作物からの原料を使って作られた食品である。オーガニック食品は遺伝子組換え食品の使用を認めていないので、当然Non-GMO食品である。しかし、Non-GMO食品は必ずしもオーガニック食品ではない。Non-GMO Projectという民間団体が非遺伝子組み換え認定食品に認証ロゴ(ロゴ1)を出しており、非常に多くの製品にこのロゴがついている。なおオーガニック食品と非遺伝子組み換え食品の2つのカテゴリーを正しく理解していない消費者が多いので、最近オーガニック食品にもNon-GMOロゴを表示している製品が増えている。
例えば、Purdue社のオーガニックの鶏肉製品(写真2)にはオーガニックのロゴとNon-GMOロゴがつけてある。鶏は遺伝子組換えされていないので、つける必要が全くないが、そうした誤解をされないためである。2022年からは遺伝子組換え食品のラベル表示(ロゴ2)が始まるので、さらに消費者の理解がかく乱される可能性がある。これはFDAが遺伝子組み換え食品を遺伝子工学食品、“Bioengineered” または “Bioengineering” (略ではBE)、と呼ぶように勧めていることから、それを受けた措置である。
自然食品:
このカテゴリーの食品は行政的あるいは業界での定義がない。合成添加物、合成色素、合成保存料などを使っていないもの、あるいは肉製品では家畜に成長ホルモンや抗生物質を使っていないものなどで、その表示は “Natural”, “All Natural” などがほとんどである。例えば、Gilbert’s Craft Sausages社の “Natural Uncured Beef Franks” のソーセージ(写真3)では、発色剤である亜硝酸塩を使わず、成分として発酵セロリ(粉末)からの自然の亜硝酸塩を使っている。添加物も天然にある成分であることが求められている。ケーシングも牛のコラーゲンを使っており、調理済みであるが最低の調理しかしていない。
ローカル食品:
地方産の食品は輸送距離が短くカーボン・フットプリントが少ないので環境にやさしいし、さらに地方の農家や生産者を支援できるというメリットがあり、最近ではスーパーマーケットでは “Local” と表示したものが多い。例えば、(写真4)は近くで取れた魚の販売をしているところにあった看板である。
持続可能食品:
持続可能食品 (Sustainable Foods) というのは持続可能農業や持続可能漁業で生産された食品、環境への負荷を少なくした食品や包装を指して使われる名称である。製品には持続可能食品と表示をしているものは少ないが、製品の説明でどのように環境などを考えているかを書いているところが多い。例えば、キノコなど菌類から抽出したマイコプロテインを使った肉代替え製品の “Quarn” (写真5)を出しているQuarn社はそのサイトで製品の製造から包装まで地球環境を考えて製造をし、更に人の健康も考えた持続可能食品であることを説明している。
人道的な食品:
自然志向の中でも家畜に対する人道的な考え方を取り入れることは動物愛護団体などが推し進めている。卵の生産などは狭い鶏舎に鶏を閉じ込めて工業的に卵を産ませる方法が一般的であったが、最近はほとんどの鶏舎で鶏に十分な空間を与えることが行われるようになってきている。カリフォルニア州は州法で一定の面積以下では家畜の飼育ができない法律を昨年制定している。放し飼いにした鶏からの卵(写真6)はプレミアムの価格で販売されている。また豚なども十分な空間を与えて飼育することが最近は求められている。と殺の段階では最近ではできるだけ苦痛が少ない方法を使っている。こうした取り扱いをして生産された畜産物にはHumaneという言葉が使われており、認証ロゴ(ロゴ3)がついている製品もある。
グラス-フェッド肉製品:
アメリカの牛肉生産者は一般に放牧されて大きくなった牛を買い取り、フィードロットで穀類を中心にした栄養価の高い飼料を与えることで柔らかい肉の量を増やした後食肉にする。これに対してオーストラリアなどでは放牧で草食をさせて育てる。ところが最近、アメリカでも草食(Grass-Fed) で育てた肉製品が増えてきている。これも自然志向の動きで、不自然な肥育に反対する農家が増えてきているのである。例えば、Sun Fed Ranchは草食の牛から作った “Natural 100% Grass Fed Beef” 製品を出しており、 写真はその中の “Ground Beef” (写真7)である。成長ホルモン。抗生物質を使っておらず、穀類は一切与えていない。したがって、製品は “Natural” 製品である。もちろんこうした製品はプレミアムの価格で販売されている。
フェアトレード製品:
コーヒー生産では昔から植民地で働く農民の労働賃金を低く抑え、本国へ安く輸出するというような労働搾取が頻繁に行われていた。最近は植民地もなくなったが、まだ安い労働賃金で生産しているところが多い。それを改善し適正な労働賃金を払い、働く農民の生活をよくするように教育や環境作りをする農園が増えてきた。そうした農園から輸入された製品をフェアトレード製品と呼ぶが、それを認定する民間団体もいくつかある。コーヒーだけでなく後進国で生産されている作物に認定がされており、認証ロゴを付けた製品もかなりある。Honest Tea社のオーガニック製品 “Honest Tea” (写真8)は、その原料の茶を適正労働賃金の労働者を使う農園で生産し、労働者の健康や、女性の地位向上など農民のコミュニティーを援助している。製品には認証ロゴ(ロゴ4)がついている。
雨林保護製品:
南アメリカや東南アジアの雨林地帯は農業の拡大で次第に面積が減ってきている。これは地球環境変化にも大きな影響を与えている。こうした自然の破壊を止めるために、雨林を保護しながら生産された原料を使って製造された製品に民間団体が認定をした認証ロゴをつけている製品がある。熱帯地方で作られる作物であるのでコーヒーが多いが、ティー製品、ナッツ製品、チョコレート製品、バナナ、パーム油などがある。認定団体より認証を受けた製品にはRainforest Allianceのロゴ(ロゴ5)の表示が認められる。例えば、Luna Bar社の”Luna White Chocolate Macadamia”(写真9)のバー製品自体にはロゴは表示されていないが、同製品に使われているチョコレートはRainforest Allianceによって認定されたものである。
クリーンラベル製品:
クリーンラベル製品は健康意識の高まりから巻き起こった自然志向の流れの中から登場して来たものである。これについては昨年の10月にすでに書いている。また、有機自然食品についてもすでに書いているので、このカラムのアーカイブをご覧下さい。
©アメリカ食品産業研究会
著者:吉田隆夫プロフィールを見る
著者:吉田隆夫プロフィールを見る