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2021.03.15
このコラムも今回の43回目で最終回となります。最後にこのコラムのまとめとして、アメリカの食品の面白さと、今後どのように変わっていくかを考えてみることにしました。アメリカの食品は世界中で食べられている。同時に多民族国家であるアメリカは世界から色々な食品が入ってきて、それがアメリカナイズされて、また世界に広がっていく。単に食品だけでなく、食文化がダイナミックに変化しているのである。そうした世界での食文化の動きは昔から常にゆっくりと起こっていたが、この100年間はアメリカの食文化が世界に加速的に影響を与えてきている。そうした動きとともに今後のアメリカの食品がどのように変化するかを考えてみた。
【フードサービス食品の世界への拡大】 
アメリカのフ―ドサービスは世界の食文化に大きな影響を与えている。例えば、アメリカで考えられたハンバーガーは現在では世界のほとんどの地域で食べられるようになっている。KFCのフライド・チキンもそうである。もともとイタリアで考えられたピッザは、アメリカに来てアメリカン・ピッザになり、逆に世界に広がっている。Starbucksのコーヒーも、現在会長のシュルツ氏がイタリアのコーヒーの飲み方をアメリカに持ち帰り広げたもので、現在では世界中に店を出している。日本の巻き寿司もそうである。カリフォルニア州で巻き寿司をうまく巻けない人のために海苔を内側にまいたカリフォルニアロール(写真1)が考え出され、それがさらに様々な寿司ロールとなり、次第に世界各地で楽しまれるようになっていったのである。こうした食品だけでなく、これ以外にもフ―ドサービス系のいろいろな食品が、アメリカから世界へ出て行っている。さらにそれがローカル化されているものもある。これからもアメリカのフ―ドサービスから生まれた商品が世界に出ていくことは間違いない。
【新しい食品材料の取り込み】 
アメリカの食品の最近における特徴は、世界にある新しい原料をどんどん取り入れていることである。例えば、中南米で大昔から使われていたキノア、チアやアマランス、さらにインドやアフリカで使われている穀類であるミレー、ソーガム、テフなどを取り入れて、新しい製品を開発したり、既存の製品にリニューアルをかけることを常にしている。例えば、TH Foods社の “Crunchmaster”ブランドの “Multi-Seeds Crucker” (写真2)にはキノア、アマランスが玄米粉、ゴマ、亜麻の種などとともに使われている。Canyon Bakehouse 社の “Ancient Grain Bread” (写真3)にはミレー、チア、アマランス、ソーガム、テフ、キノアが使われている。こうした製品は今では多くの店で販売されており、中でもキノア、チアを使った製品はアメリカでは珍しくなくなっている。
穀類、種子類だけでなく、中国のゴジベリー(クコの実)、ザクロ、マンゴスティーン、パッションフルーツ、ガラーナ、ジャックフルーツなど、多くのトロピカル・フルーツや世界の木の実などを取り入れた製品が市場にあふれている。10年以上も前にアメリカで初めて使われ始めた南米原産のアサイなども今ではアメリカだけでなく世界で使われている。こうしたアメリカにはないものを見つけてきてそれを製品化あるいは製品に使うということにはアメリカが最も積極的である。これはおそらく多民族国家であることから来ているのかもしれない。最近では東南アジアの島国の海岸で食べられているピリ・ナッツを使った製品が出されている。例えば、Lavva社がピリナッツを使った非乳製品のヨーグルト代替え製品(写真4)を出している。今後も色々な新しい食材がアメリカに取り入れられて、ユニークな製品が出されていくことであろう。
【機能性食品、飲料】 
消費者の食品への関心は健康を中心として考える健康志向がますます強くなってきている。毎日食べる食品がいかに自分の健康に影響しているかを認識する人が多くなっているのである。また既に自分がある症状や健康問題を持っている人はそれを改善、維持することも考えなければならない。最近行われている遺伝子分析によって、あるいは自分の親兄弟などを見ていて自分がなりやすい病気などを予防したいと考えている人もいる。最近の研究では多くの食品あるいは食品成分がいかに健康に関係しているかが示されており、食品にそうした効果があるとされている成分を加えた、いわゆる機能性食品、飲料が多く出されるようになった。そのための食品表示規則も出されている。アメリカでは12の食品及び食品成分と健康に関係する効能表示が認められている。さらにまだ確実に証明されていないが、ある効能との間に高度の科学的蓋然性が認められる成分について機能性表示が認可されたものもある。そうした製品だけでなく、機能性表示をしていない製品や食品もある。スーパーフードと呼ばれる食品群などはこれからも多く利用されるであろう。機能性食品については前にも何度か紹介しているので、前のコラムを参照されたい。
【環境を意識した製品】
環境問題は世界で非常に関心が高い問題で、国連を中心にしてSDGsの動きが加速している。食品産業も環境問題に真剣に取り組む必要があり、包装資材の軽量化や自然へのインパクトの軽減、プラスチック包装への対策、食品ロスの減少など、多くの問題を抱えている。アメリカではそうした環境問題を考えた製品は消費者から好意的に受け止められている。例えば、Patagonia Provisionsの乾燥マンゴー製品 “Regenerative Organic Chili Mango” (写真5)に使用されているマンゴーは、認証された再生農業で作られたものである。すなわち農地の栄養を保ち、炭酸ガスを吸収する農法で作られており、農場運営についても従業員の福祉をきちんと考えた方法で実践されている。こちらの製品はフェア・トレードの認証も受けている。Patagonia社のように意識的にこうした環境問題を考慮した原料を使用した製品を出している会社も増えており、消費者もそうした会社の製品を買う傾向が次第に出てきている。
【食の植物化】 
動物タンパクを植物タンパクに置き換えるのはずいぶん前から行われていた。それはベジタリアン、ヴィーガンという動物性食品を避ける人たちがいるからである。そのために植物性たんぱく、主に大豆たんぱくで作られた肉代替え製品が従来より冷凍食品の棚に並んでいたが、ほとんどの製品はあまり美味しくなかった。当時は動物性の食品を避けるためにそうした代替え製品をまずくても食べていたのである。2012年にBeyond Meat社がエンドウ豆タンパクを使ってハンバーガーのパテ(写真6)(当時の製品)を発表した。この製品は今までの肉代替え製品とは異なり、非常に牛肉の味と食感に近いものであった。この製品は若い人を中心にヒットし、食品業界に新しい動きを起こした。家畜での食肉生産が環境に大きな負荷を与えており、それを軽減するには植物性たんぱく製品に置き換えるべきであるという理念に共感し、時には動物性たんぱくを食べない日を作るフレキシタリアンの動きが起こったのである。
この動きはアメリカからすぐにヨーロッパにも広がった。さらにImpossible Foods社は植物性のヘムを大豆から製造することに成功し、それを使った牛肉に近いハンバーガーのパテをレストランに提供してヒットを収めた。こうした動きは植物性たんぱく製品を出していた食品会社にも活気をつけ、さらに品質改良が加えられるようになり、植物性たんぱく食品の市場は肉代替え製品だけでなく、水産物、卵、乳製品にまで広がっていった。これまで徐々に需要が増えてきた植物性原料を使用した乳飲料代替え製品は牛乳の消費を押し下げた。豆乳だけでなく、アーモンドミルクやオーツミルク製品、さらにそれを使ったヨーグルト代替え製品、アイスクリーム代替え製品なども増えていった。現在では多くのこうした植物性たんぱく製品(写真7)がスーパーマーケットの棚にならぶようになった。今後も植物性食品は増え続け、通常の食生活に取り入れられていくと考えられている。
【培養による肉製品】 
食品技術は生化学、細胞科学、医療技術などに後押しされてこれまでにない新しい分野に広がってきている。それは細胞培養による肉製品の製造である。家畜を育てる必要もなく、病原菌を心配することがない清潔な工場で製造される培養細胞肉はこの数年で急激な技術革新が進んでおり、ハンバーガーの挽肉(写真8)だけでなく、ステーキ肉、鶏肉や水産物まで開発が進められている。こうした動きはアメリカだけでなく世界中で現在事業化への競争が繰り広げられており、今後の動きはさらに加速し、近く市場にそうした製品が出される見込みである。アメリカにはこのようなベンチャー企業を支持する潤沢な資金があり、将来の食品として大きな投資が行われている。
【最後に】 
このようにアメリカの食品市場はダイナミックに変化しており、今後もアメリカの食品産業が世界を引っ張っていくのは確実だと思われます。これまでのこのコラムが皆様のお仕事に多少なりともお役に立ったのではないかと自負すると同時に、最後までお読み頂いたことに感謝申し上げます。筆者はアメリカの食品産業の情報を www.us-food.org でも発信しておりますので、そちらもご覧いただけたら幸いです。
©アメリカ食品産業研究会
著者:吉田隆夫プロフィールを見る
吉田 隆夫 (よしだ たかお)
Takao Yoshida
1968
1968 - 1970
1972
1972 - 1974

1974 - 1985
1985 - 1990
1990
1999
2002
2016
大阪大学理学部化学科修士課程卒
マイアミ大学学術研究助手
大阪大学理学部化学科理学博士取得
シラキュース大学化学科学術研究員
*2010年ノーベル化学賞受賞 根岸英一氏「シラキュース大・根岸研究室」で協働
International Flavors & Fragrances 社 主任研究員
Carlin Foods/Bunge Foods 社国際事業部長
JTC インターナショナル創立
アメリカ食品産業研究会設立
e-食安全研究会設立
クリエイティブ食品開発技術者協会設立


インターナショナル食品安全協会会員、アメリカ化学会員、アメリカ食品科学技術者協会会員-プロフェッ
ショナル・フェロー、アメリカ食品産業研究会会長、e-食安全研究会理事長

学術論文:21(化学学術論文)、技術特許:40以上



e食安全研究会 理事長
アメリカ食品研究会 会長
クリエイティブ食品開発技術者協会 専務理事
理学博士
IFT 認証食品科学士

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